3社の個別分析:事業モデル・直近決算・KPI・懸念点
前回の記事では、ファーストアカウンティング・PKSHA Technology・フィックスターズという3社を「まだ投資していないけれど密かに狙っている成長株」として取り上げました。いずれも財務健全性・高い成長性・模倣困難な競争優位性を兼ね備え、長期的に持続的な成長が期待できる“真の実力株”であることをお伝えしました。
今回はその続編として、3社それぞれの事業モデル・決算の実績・今後の成長ポテンシャルを個別に掘り下げます。単なる決算数字の羅列ではなく、なぜこの企業が他とは違うのか? どこに爆発力の源泉があるのか? を明らかにしていきます。
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ファーストアカウンティング:経理AIで市場を席巻する純粋SaaSモデル
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PKSHA Technology:ハイブリッド型AIエコシステムとデータ循環
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フィックスターズ:高収益を誇る専門家集団、AIインフラの裏方
3社の深掘りを通じて、「次の投資候補」としての可能性を投資判断につながる水準まで具体化します。
2.ファーストアカウンティング(5588)
経理AIで市場を席巻する純粋SaaSモデル
ファーストアカウンティングは、経理業務の自動化に特化したAI企業です。主力は、AI-OCRを活用した「Robota」と請求書処理プラットフォーム「Remota」。大企業向けの直販・パートナー経由に加え、中小企業向けにはOEM提供という二層の販売モデルを展開しています。
同社の強みは単なるOCRではなく、会計知識そのものを理解できるAIを持っていること。独自AI「Deep Dean」は、公認会計士試験の短答式4科目で満点を取った実績まであります。これは文字認識の域を超え、会計のルールや監査論を理解できる水準で、他社が簡単に真似できない参入障壁(Moat)となっています。
2025年2Q決算では売上+42.1%増、営業利益率10.2%と高成長を継続。ARRは19.2億円に達し、解約率はわずか0.58%。無借金経営かつ自己資本比率57%と財務も健全で、潤沢な現金を武器に成長投資を進められる基盤があります。
さらに注目すべきは市場規模。日本国内でTAM4.5兆円、米国市場では19.3兆円の試算が出ており、グローバル展開も視野に入っています。同社の掲げる「経理シンギュラリティ」、つまり経理AIが人の判断を代替する未来像が実現すれば、2028年に売上100億円という目標も現実味を帯び、現在の時価総額が168億と小さいことを踏まえれば、時価総額5倍〜10倍の可能性も見えてきます。
個人的には数年でテンバガーを狙うとしたら、ファーストアカウティングはRAK銘柄の最有力候補です。
懸念点:競合参入
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請求書受領プラットフォーム勢
Sansan「Bill One」など“受領代行+一元管理”型が浸透。OCR前段の入口を押さえる動きで、ワークフロー起点の囲い込みが進む。 -
会計SaaSのバンドル化
freee/マネーフォワードがAI読取~仕訳~承認を自社スイートに同梱。「機能は十分」×「既存導入の利便」で価格競争になりやすい。 -
AI-OCRのコモディティ化
AI inside(DX Suite)など汎用OCRの高精度化・多社提供が進展。単純OCRは差別化が難しく、知識ベース処理(仕訳・稟議・照合)での優位継続がカギ。
ここにPeppol等の電子インボイス普及が重なると「そもそもOCRの余地が縮む」可能性があり、FAのOCRの先”=会計知識と自動仕訳・照合の精度をどこまで磨き続けられるかが参入障壁の核になります。
3.PKSHA Technology(3993)
ハイブリッド型AIエコシステムとデータの循環
PKSHAは「AI Research & Solution」と「AI SaaS」の2本柱で成長するAI企業です。両事業は相互にデータと知見をフィードバックし合い、自己強化的に進化するエコシステムを形成しています。
決算は非常に好調で、2025年3Qは売上+25.1%増の153.8億円、調整後EBITDAは+39.9%増の42.6億円。AI SaaS事業のARRは84億円超、NRRも104.3%と解約以上に既存顧客からの利用が広がっています。解約率が低く、ソリューション事業も売上の8割が継続顧客からとストック性の高い構造です。
特筆すべきは「AIエージェント」戦略。すでに7,000体以上を市場に導入しており、日本の時価総額トップ100社の7割に採用されるなど、確かな実績があります。コンタクトセンター(CX)でNo.1の地位を築いた後は、社内業務(EX)領域にも展開中。さらにサーキュレーションへのTOBで人材領域に踏み込むなど、AIを社会実装する幅を広げています。
PKSHAのビジョンは「日本発AIを世界へ」。高齢化・人手不足といった日本特有の課題解決を武器に、海外市場でも強みを発揮できる可能性があります。
懸念点
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競合参入と機能同質化の圧力
自動対話システム/AIエージェント市場は高成長が続く見込みで、参入増に伴い価格・機能の同質化圧力が強まるリスク。差別化の源泉を「運用知見×大企業スケールの実装力」やプロダクト連携で維持できるかが鍵。 -
大企業・官公庁中心の案件特性(期ズレ・長期導入)
大型案件は導入〜定着のリードタイムが長く、予算サイクル次第で四半期の売上・利益率がブレる可能性。ソリューションとSaaSの“二本柱”で平準化できるかが問われる。 -
GenAIのコモディティ化と技術変化の速さ
基盤LLMの進化・低価格化で「作れること」自体の優位は縮小しやすい。プロダクトと運用の一体最適(CXからEXまでの横断)で、成果指標(解決率・削減工数)に直結する価値を継続的に示せるか。 -
M&A(サーキュレーションTOB)のPMI・財務負担
人材×AIの提供価値拡張は魅力だが、統合(PMI)と借入活用に伴う運営・財務管理の高度化が必要。統合の遅れや費用先行は短期的な収益性を圧迫し得る。 -
人材獲得コストとスケーリング
高スキルのAI/データ人材の採用・維持コストは上がりやすく、プロジェクトの粗利管理やSaaS側のオートメーション度合いが収益性を左右する
4.フィックスターズ(3687)
高収益の専門家集団、AIインフラを支える存在
フィックスターズは「ソフトウェアを速くする」ことに特化した企業です。主力は自動車・半導体・金融業界向けのソフト最適化サービスで、顧客にとってはコスト削減と性能向上の両方を実現できる“不可欠な技術パートナー”。
2025年3Q決算は売上+21.5%増の70.7億円、営業利益+33.6%増の20.8億円。営業利益率は驚異の29.5%で、国内上場企業の中でも屈指の高水準です。潤沢な利益を背景に、SaaS製品(量子インスパイアード「Amplify」やGPU最適化「AIBooster」など)や液体冷却データセンターといった新領域にも投資しています。
特に注目は長野県で準備中の液体冷却データセンター。AIの発熱・電力問題を解決するインフラとして期待され、同社が「ソフト」だけでなく「ハード」にまで領域を広げる布石となります。
海外展開も着実で、米国子会社を設立済み。さらに米国のメイヨークリニックと乳がんAI画像診断の実証実験を行うなど、国際的に技術力を認められ始めています。AI需要が加速すればするほど、フィックスターズの技術的価値は乗数的に高まるでしょう。
懸念点(Fixstars)
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人材スケールの制約
高難度の最適化エンジニアの採用・育成が成長速度のボトルネックになりやすい(受注は獲得できても供給サイドの制約)。 -
需要のサイクル感応(自動車・半導体・金融)
主要顧客業界の投資サイクル次第で案件の期ズレ・予算抑制が発生し、四半期の利益率ブレが起きやすい。 -
液冷データセンターの立ち上げリスク
設備投資回収・稼働率確保・運営難度の高さに加え、スケジュール変更(開始延期)の実績もあるため、短期の損益変動要因になり得る。 -
プロダクト(Amplify/AIBooster)の商用スケール
SaaS的な積み上げをどこまで拡大できるかが次の成長ドライバー。競合最適化ツールとの機能同質化・価格圧力も念頭に。 -
海外展開のPMFと営業コスト
米国を中心とする開拓は潜在性が大きい一方、現地PMF確立やパートナー開拓のコストが利益率を一時的に圧迫するリスク。メイヨー関連の成果をどこまで事業拡大に結びつけられるかが鍵。
🎯 まとめ
本稿で掘り下げた3社は、同じAI×B2Bでも〈成長を生み出すエンジン〉がそれぞれ異なる“実力株”です。
ファーストアカウンティングは「会計知識AI×純SaaS」でARRを積み上げ、PKSHAは「AIエージェント×SaaS」の循環で面を広げ、フィックスターズは「最適化技術×液冷DC」でAIインフラの基盤を強くする。──土台も、伸び方も、勝ち筋も違うからこそ、3社はポートフォリオで補完関係をつくります。
FA:ARRの年次伸長、エンタープライズ導入の積み上げ、利益率の改善──この3点が同時に進むか。進めば最も株価が跳ねやすい。
PKSHA:AIエージェントの横展開、NRR>100%の継続、サーキュレーションPMIによるクロスセルの実数。ここが詰まれば着実にリレーティング。
フィックスターズ:液冷データセンターの稼働率と受注残、そしてOPMの高水準維持。新柱が可視化された瞬間、評価は一段切り上がる。
リスクは本文の「懸念点」に整理した通り。ただし大事なのは、リスクを“拒む理由”にせず、KPIで管理できる論点に変えること。決算と開示で確信度を1メモリずつ上げていけば、価格ノイズに振り回されない“勝ちパターン”ができます。
次回は、3社を時間軸(3年/5年/10年/15年)で示し、「どこで評価が切り上がりやすいのか」を分かりやすく読者に伝えていきます。
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